マネジメントゲームの目的

 マネジメントゲームは、青山学院大学経営学部が独自に開発した企業経営シミュレーションゲームです。これまで、高校を卒業したばかりで企業のことをよく知らない1年生に経営学理論を理解してもらうのには大きなハードルがありました。マーケティングの話題であれば、自分たち自身が消費者としてそこに参加しているので比較的とっつきやすいのですが、例えば工場の生産性や人事制度といった話題にはピンとこない新入生がほとんどでした。そこで、そのギャップを解消するためにマネジメントゲームが開発されたのです。

 マネジメントゲームの第一の目的は、経営者として企業の全体的な動きを理解することにあります。このゲームの設定では、プレイヤーが経営することになるメーカー企業には開発部門、生産部門、そして販売部門の3部門が存在します。ゲームを進めるなかで、プレイヤーは販売だけに注力して売上を伸ばしたとしても、利益が増えていかないということに気づくことでしょう。開発部門が企業に対してどのような貢献をし、また生産部門が企業に対してどのような貢献をしているのかを、販売単価や製造コストといった数字を通して学ぶことになります。あるいは、従業員の管理の仕方を間違うと、各部門の成果が小さくなり、経営が立ちゆかなくなることにも気づくはずです。プレイヤーはカネだけではなく、ヒトも重要な経営資源であることを学ぶことでしょう。また、自社の業績を左右する競合他社との関係、自社に融資してくれる銀行の存在、そして自社に出資してくれている株主の存在といった企業を取り巻く環境との付き合い方についても、このゲームを通して理解することができるでしょう。

 マネジメントゲームの第二の目的は、学びを楽しむという学習の基本に立ち返ることにあります。シミュレーションゲームの性質が、プレイヤーたちを自然にそのような環境に置くことになります。このゲームでは、4つの異なる業界が存在し、プレイヤーたちはそれぞれ与えられた業界で他社と競争し、その順位を競います。ランキングの上位に入れば嬉しいでしょうが、下位に甘んじれば悔しい思いをすることになります。けれども、企業経営は1期で終わるものではありません。初期設定では10期を経営するのですが、その間にランキングの昇降で嬉しさと悔しさを何度も経験することになります。その感情のひとつひとつが何か新しい学びを伴い、そしてこの感情の動きが楽しさへとつながっていきます。

 マネジメントゲームの第三の目的は、自分で仮説を見つけること、そしてその仮説を見つけるために他者の意見を聞き、同時に他者に自説を語ることにあります。プレイヤーはそれぞれが孤独に企業経営をしているわけではありません。経営者同士は互いにコミュニケーションをとりながら支えあってもいます。このゲームを進めるに当たり、異なる業界のプレイヤー間でディスカッションを並行して行うことを推奨しています。ここで、あるプレイヤーは自社が堅調な理由の仮説を語り、別のプレイヤーは自社が低迷している理由の仮説を語ります。それぞれの仮説は正しい部分もあれば間違っている部分もあるでしょう。それぞれの経営者は自社のデータしか持っていませんが、他社のデータを知ることで、自分の仮説を修正し、より適切な仮説をつくっていくことができるでしょう。このゲームは、プレイヤーに経営責任(自己責任)をとることと、そのために他者とつながること(プレゼンテーションし傾聴すること)の重要性を認識させることで、社会人基礎力の養成を図ります。

 もちろん、マネジメントゲームを用いた演習はインターネット上のゲームにさえ参加していればよいというものではないということには注意が必要です。ゲームの中には企業人から見れば当たり前であっても、企業のことをよく知らない人たちには馴染みのない言葉ばかりが表記されています。ゲームで使われている言葉、そしてそれが企業経営にどのように関係しているのかといったレクチャーを並行して受けることが肝要です。あるいは前述のように、より自律的かつ能動的に参加してもらうためにも、プレイヤー同士のディスカッションの場は欠かせませんし、そこで自分の考えを披露するためには事前に準備してくることも大切な要素になります。ゲームと向き合うだけでなく、人とも向き合わなければ、マネジメントゲームの目的は実現されません。

 マネジメントゲームは、これから経営学を学ぶ大学1年生向けに開発されましたが、今後は会計情報の整備や商品開発、流通のオプションを追加していくことで、より専門的な教育にも対応できるようになる予定です。また、現行の機能であっても、企業経営の全体的な流れを理解できるような仕組みになっていますので、新入社員の導入研修などにも利用できるかもしれません。ゲームとはいえ企業の経営者になるという仮想体験が、プレイヤーたちに企業とどのように付き合うべきなのかについて深く考える機会を提供してくれることでしょう。

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